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奈良県立桜井高校において書家派遣事業を実施(3月29日 中村伸夫講師)


 令和5年3月29日に、書道の全国大会などで素晴らしい実績を挙げている奈良県立桜井高校において、本協会の中村伸夫理事による派遣事業を実施しました。
 当日は、奈良県立畝傍高校の生徒も加わり、両校の書道部員、卒業生ら合計45名が出席しました。また、文化庁の吉野亨文化財調査官、読売書法会金子泰雄事務局長も視察しました。
 詳しい内容などは次の中村講師、桜井高校の鎌田先生、書道部代表生徒のコメントをご覧ください。

中村伸夫講師のコメント
奈良県立桜井高等学校での研修会を終えて(中村伸夫)
 三月二十九日(水)の午後二時から約二時間、奈良県立桜井高等学校で研修会が開催されました。奈良県立桜井高等学校・奈良県立畝傍高等学校の生徒さんと卒業生の方々が参加され、中村が講師を担当しました。桜井高等学校の鎌田教諭をはじめとする先生方の事前準備のおかげで、前半の講義、後半の実作披露を予定通り終えることができました。
 前半の講義では「書という芸術」というテーマで、書の特質と書体の変遷、歴史的経緯や名家の作風、生活の中での書、などの視点設定のもとに、中国の場合はどうであったかについて話しました。パワーポイントを使い、できるだけ平易な説明を心掛けましたが、事柄の性質上、高校生には少し難しい内容になってしまったことが反省点です。
 後半の実作披露では、私自身の作品集を配布し、いくつかの作品を例にして簡単に作風を説明した上で、全紙横形式による以下の三点の揮毫を披露しました。①「學難成(學は成り難し)」、②「麟鳳(りんほう)」、③「春」。
 ①は「少年老い易く學成り難し、一寸の光陰軽んず可からず。」という有名な伝朱熹(しゅき)の詩句中の三字で、これを古代文字で、また、すぐれた人材を意味する②の二字は、北魏風の楷書で揮毫しました。ともに生徒さんへの期待をこめた言葉です。③は「春」と題する私自身の言葉遊びで、みずからは美しさを知らない桜の悲しさを詠んだものです。これは漢字かな交じり書として揮毫しました。
 いずれも前日の夜に自室で準備したものですが、当日は生徒さんや卒業生の方々の真剣なまなざしに負けて、思い通りには筆が動かず、全体構成も予定通りにはなりませんでした。反省することばかりですが、書の専門家の一人である私自身の揮毫現場を目の当たりにしたことが、若い方々に役立つものとなったのであれば幸いです。

桜井高校書道部顧問 鎌田博文先生のコメント
翰墨の縁
 古より文化の中心であった奈良は、筆・墨・紙の産地ということもあり、書写書道教育が盛んな地域です。そこで平成7年度に奈良県立桜井高等学校の「特色ある学校づくり」の一環として「書芸コース」が開設され、来年度入学生で第29期生を迎えます。桜井高校では外部の講師を招いて特別講座を1998年11月より実施しています。記念すべき第1回は今井凌雪先生による「書の魅力と学習法について」の講義でした。
 それから四半世紀―今回は中村伸夫先生に「書という芸術―その特質と変遷―」と題して講義と作品揮毫をしていただきました。
 講演を始めるにあたって中村先生より「今の世界情勢やコロナ禍にあって二時間にわたって皆で書について語り合えることはなんて幸せなことなのか」とおっしゃったことが強く印象に残っています。講演の前半は、郭店楚簡や河北省漢墓の天井等の新資料を活用し、様々な角度から書という芸術について考える視点、書の見方等についての解説。後半は、筑波大学退職記念『中村伸夫書展』作品集を用いて作品解説や作品の見せ方等についてわかりやすく講話していただいた後に、漢字の書(金文・楷書)2点と「桜」をテーマにした自作の詩を揮毫。ICT機器の活用により簡単に動画が見られる昨今ですが、筆者の呼吸・性情―はっという息遣い、ぐっという情熱的なもの、熱量はやはり生に勝るものは無いと痛感しました。
 この講演会には現役生だけではなく多くの卒業生も同席させていただきました。今井先生から中村先生。OB・OGとの再会。翰墨の縁を強く感じた一日でした。
 公務等大変お忙しいなか、ご講演していただき、誠にありがとうございました。今後も本校書芸コースの充実に向けて、ご指導、ご鞭撻をお願いしまして、心より感謝申し上げます。

生徒代表コメント
桜井高等学校書道部 部長 下江咲那  副部長 後木智陽
 中村先生の講義を拝聴させていただき、書が人々を魅了し今日まで伝承されていることの素晴らしさに改めて感銘を受けました。中村先生は講義の中で「波磔は人間の快感の表れである。」と言う言葉を仰っていました。私達は今まで波磔は隷書特有の表現であると思っていましたが、実は金文から存在し人々に快感を与え、書を書く喜びとして人々を魅了していることを学び驚きました。文字を記号としてではなく、文字として認識し、現代に至るまで芸術として高められ確立されてきたのだと感じました。未だ解明されていない書の歴史がまだまだ残されていることを知り、自分自身でも調べてみたいと思いました。
 また中村先生の揮毫を間近で拝見し、墨の潤滑や熾烈で緻密な筆さばきに引き込まれるようでした。落款はリズムの良い運筆で作品全体を引き立たせていました。そして「学成り難し」と書かれた際には、桜井高校の名を添えていただきとても嬉しく思いました。
 書は人間の心と深く関わっており、その人の品性や胸中までもが写し出されるということも教わりました。これまで私たちが書いてきた作品や文字から自分の心を見透かされているような気がしました。これからは、ただ書くだけではなく文字に想いを乗せ届けられる作品づくりに励みたいです。
 貴重なお時間を割いて遅くまでご指導していただきありがとうございました。



                         


今井凌雪先生の桜井高校校訓を鑑賞

前半の講義風景